レーストラックメモリのビット操作のエラー率を決定する性能評価手法を確立した。フェリ磁性体を用いて作製した細線において、ナノ秒程度の電流パルスによるビットの書き込みとビット位置の操作を繰り返し行い、磁気光学Kerr効果顕微鏡観察で得られた磁区画像からビット位置のばらつきを求めた。この手法を用いることで、ビットエラー率を決定できることを実証した。得られたビットエラー率は調査した範囲においてビット長に依存せず、隣り合うビット間の相互作用が小さいことがわかった。この結果は、正味の磁化がゼロに近いフェリ磁性体の特徴を反映していると考えられ、高密度磁気メモリに向けてフェリ磁性体が記録媒体として有効であることを示唆している。また、ビット位置操作に用いる電流パルスが十分に大きい時、連続する操作のビットエラー率に相関がないことがわかった。エラー率を抑制するためには連続する操作にエラーの相関がないことが重要であり、本研究で得られた知見は今後のレーストラックメモリの開発に大きく貢献するものである。
*東大中辻研、産総研、日大塚本研との共同研究の成果。

Decoding the magnetic bit positioning error in a ferrimagnetic racetrack
M. Ishibashi, M. Kawaguchi, Y. Hibino, K. Yakushiji, A. Tsukamoto, S. Nakatsuji, M. Hayashi
Science Advances 10, eadq0898 (2024).
[プレスリリース]
人工知能を利用して磁石の磁気パラメータの推定に成功!
次世代情報デバイスへの応用が期待されている強磁性超薄膜の磁区画像一枚から、機械学習を利用して複数の磁気パラメータを推定することに成功した。機械学習には畳み込みニューラルネットワークを用い、教師データとなる磁区画像を作成するためにマイクロマグネティックシミュレーションを利用した。機械学習が推定した磁気パラメータは実験から計測された値と一致することがわかり、機械学習を用いた画像認識が、これまで困難であった材料の特性評価に対して極めて有効であることを示した。
*電通大仲谷研、豊田工大、岐阜大との共同研究の成果。

Determination of the Dzyaloshinskii-Moriya interaction using pattern recognition and machine learning
M. Kawaguchi, K. Tanabe, K. Yamada, T. Sawa, S. Hasegawa, M Hayashi, Y. Nakatani
npj Computational Materials 7, 1 (2021).
[プレスリリース]
カイラル磁気構造の起源であるジャロシンスキー守谷型交換相互作用(DMI)のうち、強磁性/非磁性金属の界面で発現するDMIの大きさが電流で変調できることがわかった。電流の向きに関わらず、DMIは電流の増加とともに大きくなり、そのレートはスピンドップラー効果に基づく予測と概ね一致した。この結果は界面のDMIが平衡スピン流によって誘起されている可能性を示唆しており、DMIが外部制御できることを実証するものである。
*電通大仲谷研、京大との共同研究の成果。

Current induced modulation of interfacial Dzyaloshinskii-Moriya interaction
N. Kato, M. Kawaguchi, Y.-C. Lau, T. Kikuchi, Y. Nakatani, M. Hayashi
Phys. Rev. Lett. 122, 257205 (2019).