線形な分散関係を持つ電子はディラック電子と呼ばれ、グラフェンやビスマスなど特殊な物質の中に存在することが知られている。ビスマスにおけるスピンホール効果を調べたところ、ディラック電子系におけるスピン流はスピン角運動量の流れではなく、磁気モーメントの流れから構成されるものであることがわかった。スピン角運動量の流れは電子とホールで逆になり、ディラック電子系では消失する。一方、磁気モーメントの流れはキャリアの種類によらないため、スピン流形成に寄与する。ビスマスはその巨大なg因子によってキャリアが持つ磁気モーメントが非常に大きいため、大きなスピンホール伝導度を有することが明らかになった。
*東大小形研、東北大高梨研との共同研究の成果。
Spin Hall effect driven by the spin magnetic moment current in Dirac materials
Z. Chi, G. Qu, Y.-C. Lau, M. Kawaguchi, J. Fujimoto, K. Takanashi, M. Ogata, M. Hayashi
Phys. Rev. B 105, 214419 (2022).
スピン軌道相互作用の大きな重金属中で発現するまったく新しい振動-スピン流変換機構の存在を明らかにした。重金属に表面弾性波と呼ばれる原子スケールの高速振動を伝搬させると、弾性波と直交する方向にスピン流が発生することがわかった。格子振動がスピン軌道相互作用を介して電子スピンと結合するという、新しい形の相互作用を示唆する結果である。原子振動・スピン・電気を橋渡しする今回の結果は、さまざまな物質における力学的運動やスピンの働きを探究する足がかりとなる。
*名古屋大河野研との共同研究の成果。
Acoustic spin Hall effect in strong spin-orbit metals
T. Kawada, M. Kawaguchi, T. Funato, H. Kohno, M. Hayashi
Science Advances 7, eabd9697 (2021).
[プレスリリース]
ディラック電子が誘起する大きなスピンホール効果を観測
ディラック型のバンド構造を有するBiSb半金属において、スピンホール角が1を超える大きなスピンホール効果が発現することがわかった。温度や積層構造、組成や膜厚依存性などから、BiSb半金属におけるスピンホール効果がトポロジカル表面状態ではなく、バルク中のディラック電子に起因するものであることを見出した。これらの結果はディラック電子系が巨大なスピンホール移動度を持ち、スピン流源として大きなポテンシャルを有していることを示唆するものである。
*NIMS宝野・大久保グループとの共同研究の成果。
The spin Hall effect of Bi-Sb alloys driven by thermally excited Dirac-like electrons
Z. Chi, Y.-C. Lau, X. Xu, T. Ohkubo, K. Hono, M. Hayashi
Science Advances, 6, eaay2324 (2020).