スピン軌道相互作用が大きい物質に電流を流すとスピン流が発生する現象はスピンホール効果として知られている。スピン流はスピン角運動量が移動する電子の流れであるが、角運動量を運搬する電子の流れとして、軌道角運動量の流れを指す軌道流が最近注目されている。軌道ホール効果は軌道流を誘起することができ、スピン軌道相互作用が小さい$3d$遷移金属で大きくなることが理論的に予想されている。本研究では磁気光学Kerr効果を利用して、物質の表面に蓄積する磁気モーメントを評価する手段を確立した。その手法を用い、スピン軌道相互作用が小さいV(バナジウム)において、軌道ホール効果による軌道磁気モーメントの蓄積の観測に成功した。ただ、実験結果から、軌道ホール伝導度を直接求めることはできないため、今後の課題となっている。
*三重大中村研、豊田工大粟野研との共同研究の成果。

Spin and orbital Hall currents detected via current-induced magneto-optical Kerr effect in V and Pt
Y. Marui, M. Kawaguchi, S. Sumi, H. Awano, K. Nakamura, M. Hayashi
Phys. Rev. B 108, 144436 (2023).