人工反強磁体におけるマグノンとフォノンの結合定数を実験的に決定した。人工反強磁性体は非磁性薄膜を2つの強磁性薄膜で挟み、強磁性層の磁化が反平行となる構造を持っている。強磁性層が2層あるため、音響モード、光学モードの2つのマグノンが存在する。音響モードマグノンと音波程度の速度で伝搬する弾性波フォノンの結合強度を、弾性波共振器を用いて調べた。その結果、人工反強磁体におけるマグノン・フォノン結合定数は10 MHz程度であることがわかった(マグノン、フォノンの共鳴周波数は約1.85 GHz)。一般的に結合強度がマグノンとフォノンの緩和周波数よりも大きければ強結合状態と言えるが、本実験ではフォノンの緩和周波数が0.3 MHzであったのに対し、マグノンの緩和周波数が525 MHzと大きく、強結合状態には至らなかった。多層膜系におけるマグノン・フォノン結合を定できることがわかったため、今後は大きな結合が得られる材料系を設計できるか課題となる。
*NTT物性研との共同研究の成果。

Magnon-phonon coupling of synthetic antiferromagnets in a surface acoustic wave cavity resonator
H. Matsumoto, I. Yasuda, M. Asano, T. Kawada, M. Kawaguchi, D. Hatanaka, M. Hayashi
Nano Lett. 24, 5683 (2024).
人工反強磁性体において表面弾性波の大きな非相反伝導を観測
波の進む向きによって振幅が異なる現象を「非相反伝導」と呼ぶ。表面弾性波は物質中を伝搬する音波の1つで、速度数km/s程度で伝播する。人工反強磁体の中を伝播する表面弾性波を調べたところ、右と左に伝播する波の大きさが異なることがわかった。人工反強磁性体は非磁性薄膜を2つの強磁性薄膜で挟み、強磁性層の磁化が反平行となる構造を持っている。表面弾性波が人工反強磁体の中のスピン波と相互作用し、非相反伝導が誘起されていると考えられる。

Large surface acoustic wave nonreciprocity in synthetic antiferromagnets
H. Matsumoto, T. Kawada, M. Ishibashi, M. Kawaguchi, M. Hayashi
Appl. Phys. Express 15, 063003 (2022).